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かみ合わせが悪いことで身体に及ぼす影響とは、頭痛や肩こりなどの原因になることも

「かみ合わせが悪い」ということは、お口の問題として咀嚼などに支障が出たり、審美的に気になったりするだけでなく、全身へさまざまな影響があるということをご存じでしょうか? 今回は、悪いかみ合わせの種類やその原因と、全身への影響について解説します。もしかすると、体の不調はかみ合わせが原因になっているかもしれません。

目次


悪いかみ合わせとは


かみ合わせが悪いと、歯や顎に過剰な負担がかかり、結果的にお口の健康だけでなく全身の健康にも影響を及ぼすことがあります。
自然なかみ合わせが崩れてしまうと、アンテリアガイダンス(前歯と奥歯の役割分担)がうまく機能せず、奥歯への負担が増加し、歯や顎への影響が懸念されます。
なお、かみ合わせの問題がどのように「歯」「歯周組織」「顎関節」に影響を及ぼすかについては、後のセッションで詳しく解説していますので、そちらも併せてご参照ください。
悪いかみ合わせは、主に次の3つに分類されます。
● 早期接触
● 咬頭干渉
● 無接触

早期接触

早期接触とは、かみ合わせの際に特定の歯が他の歯よりも先に接触する状態を指します。上下の歯の接触や顎関節の動き・機能が一致していない状態が続くと、一部の歯に過剰な力がかかり、歯や顎に深刻なダメージを与える恐れがあります。

咬頭干渉

咬頭干渉とは、顎が前後左右に動く際(下顎の滑走運動)に、特定の奥歯が接触することで顎のスムーズな動きが妨げられる状態を指します。この状態になると、かむ際に奥歯に横方向の力が加わり、奥歯に通常より大きな負担がかかります。
本来、横方向の力は犬歯が前方への力は前歯群が受け止める役割を果たしますが、前歯が十分に機能していない場合、奥歯が横方向の力を受けざるを得ず、結果として歯や顎関節に負担がかかることになります。このような負担の増加により、顎関節や周囲の筋肉にストレスがかかり、痛みや違和感が生じる可能性があります。

無接触

無接触とは、上下の歯がかみ合うべき箇所で接触せず、顎が安定しない状態を指します。特に前歯が接触しない開咬の場合、食事中に物をかみ切ることが難しくなるだけでなく、顎関節に過剰な負荷がかかりやすくなります。

正確な診断の重要性

かみ合わせが悪いかどうかは、見た目だけでは判断できず、精密な検査が欠かせません。しかし、実際にかみ合わせについて深い知識を持つ歯科医師は非常に限られています。
そのため、正確なかみ合わせの診断ができる専門的な歯科医院で、咬合力の分布や顎の動きについて専門の器具を用いて詳しく解析することが求められます。

かみ合わせが悪い原因


かみ合わせが悪いのは、お口の中のバランスが崩れることで生じる複雑な問題です。主な原因として、以下が挙げられます。
 
●  口周りの筋肉
●  親知らずの影響
●  歯の欠損や虫歯などの問題

口周りの筋肉

赤ちゃんが生まれた直後から始まる哺乳行動は、将来の歯並びに深い関わりを持っています。適切な哺乳が行われないと、口腔周囲の筋肉が十分に発達せず、結果としてかみ合わせが悪くなるリスクが増加します。この初期のトレーニングが、将来的なかみ合わせの土台を形成するのです。

親知らずの影響

親知らずは歯並びに圧力をかけ、歯並びを悪化させることがあります。特に、顎の大きさに対して歯のサイズが不釣り合いな場合、親知らずの出現が全体の歯並びを圧迫し、かみ合わせの悪化や叢生(歯が凸凹に並んでいる状態)を引き起こす可能性が高まります。
特に影響が大きいのは7番目の歯(第二大臼歯)です。親知らずの生え方が不自然だと、歯のかみ合わせに乱れを生じさせることがあります。これが早期接触や咬頭干渉を引き起こし、全体的なかみ合わせに悪影響を与えることがあります。

歯の欠損や虫歯などの問題

虫歯によって痛みが出ると、人は無意識にその痛みを避けるために、かむ位置をずらすことがあります。これにより、歯が健側(問題が少ない側)に偏り、傾いたり移動したりします。このような動作が習慣化すると、かみ合わせの悪化につながりかねません。
さらに、歯の欠損がある場合、その隣の歯が傾いてしまったり、上下でかみ合うべき歯が伸びたりすることで、全体のかみ合わせが乱れる恐れがあります。
また、虫歯治療が不適切に行われた場合も、歯の咬合面の形状が変化し、咀嚼効率の低下や顎関節への過剰な負担を招きかねません。

かみ合わせチェック


かみ合わせが適切であるかどうかは、お口の健康を維持する上で不可欠です。かみ合わせの状態を評価する際には、以下の3つのポイントが重要です。

●  全ての歯が同時に接触しているか
●  アンテリアガイダンスがあるか
●  奥歯の凸凹がかみ合わさっているか

全ての歯が同時に接触しているか

理想的なかみ合わせとは、上下の歯が均等に接触し、全ての歯が一緒にかみ合っている状態です。このような均等な接触により、力が均等に分散され、特定の歯に過剰な負担がかかることを防げます。

アンテリアガイダンスがあるか

アンテリアガイダンスは、前歯が下顎の動きを適切に導く重要な機能です。前後左右に顎を動かす際、前歯が適切に接触し、奥歯がわずかに離れる状態が理想とされています。
アンテリアガイダンスが正常に機能することで、奥歯への過度な負担が軽減され、歯全体の健康が保たれます。

歯の凸凹がかみ合わさっているか

奥歯のかみ合わせにおいて、咬合面の凸凹が正確に合うことが理想です。できるだけ多くの接触点があり、連続して途切れることなく平面が形成されることで、効率的な咀嚼が実現します。

かみ合わせの悪さが身体に与える影響とは


かみ合わせが悪いことは、単なる歯の問題に留まらず、体全体にさまざまな影響を及ぼします。具体的にどのような症状やリスクがあるのかを詳しく見ていきましょう。

頭痛や肩こりの要因になる

かみ合わせが悪いと、顎関節や周囲の筋肉に過剰な負担をもたらします。この蓄積された負担が、顎から首、肩にかけての筋肉に緊張を引き起こし、酸素や栄養の供給が滞ることになります。その結果、慢性的な頭痛や肩こりが生じるリスクが高まります。
特に顎の筋肉は非常に強力で、かむ際には自体重の2倍以上の力が発生します。かみ合わせが悪い状態では、この力の調整がうまくできず、筋肉に疲労が蓄積しやすくなるのです。

全身への影響も

かみ合わせが悪いと、姿勢や運動能力にまで影響が及びます。近年の研究では、かみ合わせが悪いことで、脊柱のアライメントにまで影響を及ぼし、脊椎全体に不均衡が生じることが確認されています。
例えば、片側で咀嚼する癖がつくと、頸椎に余計な負荷をかけ、姿勢の崩れを引き起こしかねません。特に上顎前突などの不正咬合は、頭部の位置が前方にずれ、全身のバランスが崩れる原因となります。
結果として、かみ合わせが悪いと、瞬発力や持久力が低下し、スポーツや日常生活におけるパフォーマンスを最大限発揮しにくくなるでしょう。

自律神経への影響

顎関節の不具合やかみ合わせの乱れがもたらす不定愁訴、いわゆる「咬合関連症」は、自律神経のバランスを損なう一因となります。
しかし、この問題の本質は自律神経自体にあるわけではなく、顎関節症そのものにあります。かむ際に使われる側頭筋や広頸筋に過度の負担がかかると、頭部から首にかけて筋緊張が高まり、これが自律神経系にストレスを与えます。
その結果、交感神経と副交感神経の調整が乱れ、不眠、めまい、全身の疲労感といった症状が現れることがしばしば見受けられます。

消化不良を引き起こし内臓への負担

かみ合わせが悪いと、食べ物をしっかりとかまずに飲み込むことが増えてしまいます。咀嚼が不十分だと、食べ物は適切に細かく砕けず、唾液の分泌も不足します。
 唾液は消化を助け、食べ物を適切な食塊に形成する役割を果たします。十分にかまないことで、食塊が大きいまま胃に入ると、消化器官に負担をかけ、消化不良を引き起こす原因となります。
 消化が不十分だと栄養吸収も低下し、全体的な健康に悪影響を与えかねません。

かみ合わせの悪さが口腔内に与える影響とは


かみ合わせが悪いと、食べ物をしっかりとかまずに飲み込むことが増えてしまいます。咀嚼が不十分だと、食べ物は適切に細かく砕けず、唾液の分泌も不足します。
唾液は消化を助け、食べ物を適切な食塊に形成する役割を果たします。十分にかまないことで、食塊が大きいまま胃に入ると、消化器官に負担をかけ、消化不良を引き起こす原因となります。
消化が不十分だと栄養吸収も低下し、全体的な健康に悪影響を与えかねません。

虫歯

不正咬合によって、歯には過度な力が加わります。この力がエナメル質に微細なひび割れを生じさせ、そこから細菌が侵入するため、虫歯のリスクが高まります。特に、無意識にかみしめる習慣がある方は注意が必要です。

歯周病

かみ合わせが悪いと、特定の歯に不均一な力がかかり、歯周組織に炎症を引き起こす要因となり得ます。この慢性的な炎症は、歯周病の進行を早め、最終的には歯の動揺や喪失につながる恐れがあるのです。

歯の欠損

悪いかみ合わせを放置していることで、歯列がさらに乱れてしまうこともあります。

歯列の変化

かみ合わせが悪いと、歯並び全体のバランスが崩れる恐れがあります。その影響で、歯の位置が次第にずれてしまい、さらなるかみ合わせの問題を誘発するという負の連鎖に陥る可能性も考えられます。

歯ぎしり

不正咬合は、無意識のうちに歯ぎしりを引き起こし、これが顎関節症のリスクを高め、歯の摩耗を加速させる要因となるケースもあります。
 しかし、アンテリアガイダンスがしっかり確立されている場合、歯ぎしり自体は生理的な現象であり、特に問題はありません。実際、多くの人が何らかの形で歯ぎしりを行っており、アンテリアガイダンスが確立されていると、自覚も他覚もないことがほとんどです。
 一方、アンテリアガイダンスが不十分な場合、奥歯同士がこすれて音が鳴り、歯や顎に問題が生じることがあります。その結果、歯ぎしりを自覚し、他者にも認識されることが多くなります。

歯痛(歯が痛い)

かみ合わせが悪いことによる過度な力は、歯や周囲の組織に慢性的な負担をかけ、持続的な歯痛を引き起こすリスクをはらんでいます。この痛みは、日常生活の質を著しく低下させる原因となるでしょう。

かみ合わせの悪さが顔に与える影響


かみ合わせが悪いことは、顔面の力学的バランスを崩し、顎顔面領域に多大な影響を及ぼす可能性があります。この力のアンバランスは、審美的な問題だけにとどまらず、機能的障害や慢性的な痛みをもたらす恐れがあるでしょう。

顎関節症(顎が痛い)

かみ合わせが悪いと、顎関節に過度な負担がかかり、顎関節症を誘発する原因となり得ます。この状態では、顎関節や周囲の筋肉に痛みが生じ、口の開閉時に違和感や音が発生することがあります。さらに、重症化すると開口障害を引き起こし、日常生活にまで支障を及ぼす事態に至るかもしれません。

顔の歪み・不調

不適切なかみ合わせは、顔面の筋肉に不均衡をもたらし、顔の非対称性や歪みが顕著に現れる場合があります。かみ合わせが悪いことによる顔の歪みは、単に外見上の問題だけでなく、頭痛や肩こりといった二次的な症状を引き起こすということです。
さらに、顔の筋肉のアンバランスさは表情筋の正常な機能を妨げ、コミュニケーションの困難や表情の豊かさが損なわれる可能性も否定できません。

かみ合わせの治療方法


まずは、きちんとかみ合わせの診査・診断を行いましょう。そのうえでかみ合わせが悪い状態の改善には、さまざまなアプローチが考えられます。治療法の選択にあたっては、症状の程度や原因、年齢、全身状態などを総合的に考慮して決定されます。

 

リシェイピング(歯を削る)

軽度の咬合不全に対しては、歯の形態修正(リシェイピング)が有効な治療法として位置づけられます。この治療では、歯の表面を微細に削ることで、かみ合わせが悪い部分を調整し、咬合のバランスを整えます。

咬合力が特定の一点に集中している場合、その力を適切に分散させることで、かむ圧力を歯全体で均等に受け止められるように改善していきます。ただし、過度に削合することは歯の構造を損なうリスクがあるため、治療には十分な知識と経験が求められます。

矯正治療

リシェイピングだけではかみ合わせの調和がとれない場合や機能できる位置に歯を移動せざるを得ない場合は、矯正治療が重要な選択肢となります。ワイヤー矯正やマウスピース矯正など、さまざまな矯正治療法がありますが、マウスピース矯正だけではかみ合わせ機能の改善には限界があります。
矯正治療の多くは見た目の改善や上下の歯列を整えることに焦点を当てており、上下の歯がかみ合った際の機能性に関しては十分に考慮されていないことが多いのが現実です。そのため、矯正治療後に奥歯の痛みや顎関節の不調、補綴物の不具合など、かみ合わせに関連する症状が発生することも少なくありません。
矯正治療では、さまざまなアプローチを駆使し、歯の位置の調整(リポジショニング)を行うことで、歯や顎の配置を理想的な状態に近づけていきます。この過程を通じて、かみ合わせが整い、より快適で健康的なお口の環境を作り出すことができます。
また、矯正治療は、審美性の向上だけでなく、顎関節症や歯周病のリスク軽減にも寄与します。ただし、治療期間が長期に及ぶことや、装置装着に伴う一時的な違和感などのデメリットも考慮する必要があるでしょう。

被せ物や入れ歯の作り直し

既存のかぶせ物や入れ歯が不適切な場合、かみ合わせの不具合を引き起こすことがあります。このような状況では、補綴物を適切に作り直すことで、かみ合わせの改善が期待できます。
特に、複数の歯に及ぶ大規模な補綴治療を行う際には、全体的なかみ合わせのバランスを考慮した精密な設計が不可欠です。
また、無接触に対応する治療としては、義歯治療も効果的な選択肢となり得ます。義歯によって安定したかみ合わせを作り、さらにその良い状態を長期間維持するためには、テレスコープシステムが最適な方法となり得ます。
このシステムは残った歯にかぶせた「内冠」と義歯の「外冠」でしっかり固定され、金具のバネを使用せず、見た目も自然で違和感の少ない外観を実現します。

スプリント治療

顎関節症状を伴う咬合不全の場合、スプリント治療が一時的な症状緩和に有効です。この方法では、歯並びに合わせて作製した装置を装着し、顎関節への負担を軽減します。
しかし、スプリント治療はあくまでも対処療法であり、根本的な咬合の問題を解決するものではありません。長期的には、原因に応じた適切な治療法を選択する必要があるでしょう。

予防策(噛み合わせが悪くならないために)

かみ合わせが悪い状況は、生涯を通じてお口の健康に重大な影響を及ぼす可能性があります。そのため、各発達段階に応じた適切な予防策を講じることが極めて重要です。

乳児期・幼児期

この時期は、将来の咬合状態を左右する重要な基盤形成期です。正しい哺乳行動を通じて口腔内の筋肉を適切に発達させることが、健全な顎の成長と理想的な歯列形成につながります。
 特に注意すべきは、悪習癖の予防と早期修正です。指しゃぶり、舌突出癖、唇かみなどの持続的な悪習癖は、顎の成長や歯並びに悪影響を及ぼし、不正咬合のリスクを高めます。これらの習慣が定着する前に、適切な指導や介入を行うことが重要です。

成長期・成人期

この段階では、虫歯や歯の異変を放置しないことが肝要です。虫歯の進行は歯の形態を変化させ、隣接歯との接触関係を崩す可能性が否定できません。また、歯の喪失は残存歯の移動を招き、かみ合わせのバランスを崩す原因となり得ます。定期的な歯科検診を通じて、早期発見・早期治療を心がけましょう。
 
親知らずの管理も重要な課題です。親知らずが他の歯に悪影響を及ぼす前に適切な時期に抜歯することで、歯列不正のリスクを軽減できます。歯科医師と相談の上、個々の状況に応じた最適な対応を選択することが望ましいでしょう。

まとめ

かみ合わせが悪い状態は、多くの患者さんが抱える歯科特有の本質的な悩みであり、頭痛や肩こりといった全身症状の根本原因となる場合があります。この問題は見た目だけでは判断できず、進行すると顎や歯に負担をかけ、さらには消化不良や自律神経の不調を引き起こすこともあります。
日常生活の質を向上させるためには、正しい診断と治療が不可欠です。「最近、かみ合わせが悪いな…」と感じている方は、ぜひ専門家のアドバイスを受けていただきたいと思います。個々の状況に応じたサポートを受けることで、お口の健康が守られ、より快適な日常を取り戻せることでしょう。
 

この記事を書いた人

嶋倉史剛
◆経歴
2000年 明海大学歯学部 卒業
2000年~2006年 明海大学病院歯周病科 勤務
2012年9月 あらやしき歯科医院 開業

◆所属・資格
IPSG包括歯科医療研究会 副会長
日本嚥下機能訓練協会 理事
明海大学歯周病学分野同門会
日本総合口腔医療学会 口腔総合医認定医 常任理事
オーラルビューティーフード協会 理事
日本医歯薬専門学校非常勤講師
日本顎咬合学会 かみ合わせ認定医

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